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東京地方裁判所 平成9年(ワ)7672号 判決 1998年3月24日

甲事件原告

上田和孝

被告

幸地洋介

乙事件原告

幸地俊明

被告

上田和孝

主文

一  甲事件被告は、同事件原告に対し、金五五万二九四五円及びこれに対する平成八年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、同事件原告に対し、金七万四九七四円及び、内金五万〇八二九円に対する平成八年一二月一五日から、内金二万四一四五に対する平成九年一二月二五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告、乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四1  甲事件の訴訟費用は、これを五分し、その一を同事件原告の負担とし、その余を同事件被告の負担とする。

2  乙事件の訴訟費用は、これを五分し、その四を同事件原告の負担とし、その余を同事件被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告は、同事件原告に対し、三三四万一七〇〇円及びこれに対する平成八年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告は、同事件原告に対し、五一万六四九七円及び、内金三五万五五二九円に対する平成八年一二月一五日から、内金一六万〇九六八円に対する平成八年一二月二四日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、同一方向に進行する車両同士(進路変更車と後続直進車)の交通事故により損傷した車両の所有者が互いに相手方車両の運転者に対し、損害賠償(物損)を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。)

1  本件交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

事故の日時 平成八年一二月一五日午後六時〇〇分ころ

事故の場所 東京都台東区花川戸二―二一―一七先路上(以下「本件道路」という。甲九)

関係車両1 普通乗用自動車(練馬三四ね二一七九。平成三年四月初度登録のメルセデスベンツ三〇〇CE。以下「上田車両」という。甲一、二)

右運転者 甲事件原告・乙事件被告(以下「上田」という。)

右所有者 上田

関係車両2 普通乗用自動車(所沢五八ふ六五七九。以下「幸地車両」という。)

右運転者 甲事件被告(以下「幸地」という。)

右所有者 乙事件原告(以下「幸地俊明」という。)

事故の態様 右折進行車線から左方に車線変更中の幸地車両と、折から左側方を直進進行中の上田車両とが衝突し、さらに幸地車両は、訴外李宝成(以下「李」という。)運転の普通乗用自動車(足立五九め三九六五。以下「李車両」という。)と接触した。なお、事故の詳細については、当事者間に争いがある。

2  幸地の責任原因

幸地は、車線変更するに際し、左後方の安全確認義務を怠った過失があるから、民法七〇九条に基づき、上田に生じた損害を賠償すべき責任がある。

三  本件の争点

本件の争点は、本件事故の態様(過失相殺)と損害額である。

1  本件事故の態様(過失相殺)

(一) 上田の主張

本件事故当時、本件道路の第三車線は、幸地車両の前後とも右折待ちの車両が連なって停車していたものであり、幸地車両は、車線変更の合図を出さずに、いきなり進路変更したものであり、上田に過失はない。なお、本件事故後、幸地は、上田に対し、自らの不注意による事故であることを認めていた。

(二) 幸地、幸地俊明(以下、両名を併せて「幸地ら」ともいう。)の主張

幸地は、本件道路の第三車線を進行中、進路前方が右折車線であることに気づいたため、左折のウィンカーを表示させた上、減速して左方の第二車線に進入したところ、本件事故が発生したものであり、上田には、前方不注視等の過失があるから、上田は、幸地俊明、亀井に生じた損害を賠償すべき責任がある。

上田には、右の過失があるから、上田の損害額を算定するに当たっては、上田の過失を三〇パーセント斟酌すべきである。

2  損害額

(一) 上田の主張

(1) 修理費 五九万一七〇〇円

(2) 代車料相当損害 九〇万〇〇〇〇円

上田は、本件事故当時、上田車両を通勤及び荷物の運搬等に使用しており、本件事故により、上田車両が損傷したため、通勤等に多大の支障を来したものであるが、上田が幸地車両の任意保険会社の担当者に代車の提供を求めた際、本来であれば、代車使用の必要性が認められるはずであるにもかかわらず、右担当者が代車の提供を拒否したため、上田はその言葉を信じ、代車を使用できなかったことによる不便を強いられたものであるから、上田には代車料相当額の損害が生じているというべきところ、上田車両の修理には、平成八年一二月一六日から平成九年一月一五日までの一か月間を要し、上田車両と同等車両の一日当たりの代車費用は三万円であるから、上田の損害額は、三〇日間で前記金額となる。

(3) 評価損 一五〇万〇〇〇〇円

上田は、平成八年一一月七日上田車両を購入し、購入時から本件事故までに約二六〇〇キロメートル走行していたものであるが、本件事故の修理によりいわゆる事故車として査定価格が大きく下落したものであり、評価損としては、一五〇万円を下るものではない。

(4) 弁護士費用 三五万〇〇〇〇円

(二) 幸地らの主張

(1) 幸地車両修理費 三〇万五五二九円

(2) 李車両修理費 一六万〇九六八円

幸地俊明は、平成八年一二月二四日、李車両の所有者である訴外亀井成彦(以下「亀井」という。)に対し、本件事故に基づく損害賠償債務として、修理費一六万〇九六八円を支払った。

これにより、幸地俊明は、上田に対し、亀井の上田に対する損害賠償請求権を代位取得した。

(3) 弁護士費用((1)の損害につき) 五万〇〇〇〇円

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様(過失相殺)について

1  前記争いのない事実等に、甲二、八、乙一、三、上田本人、幸地本人、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件道路(通称言問通り)は、言問橋方面から昭和通り方面に向かう、片側三車線の直線道路であり、本件事故現場前方の通称花川戸二丁目交差点(以下「本件交差点」という。)において、交差道路(通称馬道通り)と交差しており、本件道路の第一車線と第二車線は直進用(第一車線は、交差点内左折進行可。)、第三車線は右折専用車線となっている。

本件事故当時、本件道路の第一車線の路上には、多くの車両が駐車していた。

(二) 上田は、本件事故当時、勤務先(東京都足立区青井三―七―一七)から秋葉原に買い物に行くため、上田車両を運転し、本件道路の第二車線を時速約四〇ないし五〇キロメートルで進行中、上田車両の右側前部(右前輪付近)と、幸地車両の左側前部(左フロントフェンダーないし左フロントドア付近。乙一)が衝突した。

上田は、本件事故が発生するまで、幸地車両が進路変更をしているのに気づかなかった。

本件事故当時、第二車線の上田車両の前方を進行中の車両は、約一〇〇メートル先までいなかった。

(三) 幸地は、本件事故当時、埼玉県川越市内の自宅に帰るため、友人を同乗させて幸地車両を運転し、本件道路の第二車線を時速約四〇キロメートルで進行し、本件交差点を直進するつもりでいたところ、交差点の手前まで来たとき、本件道路が一車線増え、幸地車両が第三車線に入っていることに気づいたが、同車線が右折専用車線になっており、同車線上に右折待ちの停車車両数台を認めたため、左側に車線変更しようとして、ウィンカーを出して減速しながら、車線変更の機会を伺ったものの、左後方を見た際、第二車線後方の上田車両のライトまでかなり距離があるように見えたため、車線変更したところ、本件事故が発生した。

幸地は、本件事故発生まで停車はしなかった。

本件事故後、さらに、幸地車両は、前方の李車両の右側部をこする形で李車両と接触した。

本件事故後、現場付近において、上田と幸地が話しをした際、幸地は、上田に対し、すべて自分が悪いと述べた。

(四) 上田は、本件事故当時、幸地車両は進路変更の合図を出していなかったと主張するが、上田は、本件事故発生まで幸地車両に気づいていない上、幸地車両が合図を出していたかどうかについての法廷供述は、あいまいであり採用できない(この点は、むしろ上田の前方不注視を推認させる事情と認められる。)。

幸地は、上田車両がかなりの速度を出していたと主張するが、単に憶測を述べるにとどまり、採用できない。

2  右の事実をもとにして、本件事故の態様について検討するに、本件事故は、同一方向に進行する車両同士(進路変更車と後続直進車)の接触事故であるが、幸地は、進路変更しようとしていたのであるから、左後方の安全を十分確認しなければならないというべきところ、上田車両が幸地車両の直後まで接近していたのにかかわらず、これを遠くにいるものと軽信し、その直前で車線を変更したため、本件事故が発生したものであるから、この点に過失がある。

他方、上田としても、前方を十分注視していれば、幸地車両が車線変更をしようとしているのを容易に確認できたのであるから、この点に過失がある。

そして、上田、幸地双方の過失を対比すると、その割合は上田一五、幸地八五とするのが相当である。

二  損害額について

1  上田の損害額

(一) 修理費 五九万一七〇〇円

甲二により認められる。

(二) 代車料相当損害 認められない。

甲二、七、上田本人、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

上田は、本件事故前、自宅と勤務先との通勤や荷物の運搬等に上田車両を使用していたものであるが、本件事故により上田車両が損傷したため、平成八年一二月一六日訴外株式会社ワークスに上田車両の修理を依頼し、修理の完了した平成九年一月一五日まで上田車両を使用できなかったが、その間、通勤には電車や自転車を使用したほか、荷物等を持ち帰らないですむよう残業や休日出勤をすることによって対処し、レンタカー等の代車を借りて使用することはしなかった。

右によれば、上田に代車使用の必要性があったとするには、疑問があり(なお、上田自身の代車使用の必要性が保険会社の担当者の言辞によって左右されるものではない上、代車使用の必要性は上田と幸地の過失割合とも直接関連しないから、担当者の説明如何が代車使用の必要性に影響するものとはいいがたい。)、他に上田の代車使用の必要性を認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、代車料相当の損害は認められないというほかない(なお、甲六が一日分の代車相当の損害を認めるに足りる証拠になるともいえない。)。

(三) 評価損 認められない。

甲一、二、七、上田本人によれば、上田車両は、平成三年四月初度登録されたメルセデスベンツ三〇〇CEであり、上田は、上田車両を平成八年一一月七日購入し、本件事故まで二五一二キロメートル走行していたものであるが、本件事故により主として車体右側部に損傷を受け、右フロントフェンダー、右フロントホイル、ショックアブソーバー、スピンドル、ハブ等の脱着交換等を行い、修理費として前認定のとおり、五九万一七〇〇円(消費税を含む。)を要したものの、右修理によっては走行自体に影響がないことが認められる。

上田は、本件事故の修理により上田車両の価格が少なくとも一五〇万円は下落したと主張し、これに沿う証拠(甲三、五)もあるが、本件事故による走行への影響を認めるに足りる証拠はない上、上田車両は初度登録後、本件事故までに五年余を経過しており、事故による格落ち自体を想定しにくいほか、甲三、五は、いずれもなされた修理の部位内容とは無関係に、単なる抽象的な価格の下落の可能性をいうにすぎず、何ら具体性がなく、前記修理費と比較してもいささか過大であって、容易に措信できず、他に評価損を認めるに足りる的確な証拠はない。

2  幸地俊明の損害額

(一) 幸地車両修理費 三〇万五五二九円

乙一により認められる(なお、乙一には、本件事故による上田車両との衝突の際の損傷のほか、その直後の李車両との衝突の分も含まれているが、右は一連の事故というべきであり、前認定のとおり、本件事故については、上田にも相当の過失があるから、いずれの損傷についても本件事故と相当因果関係があるというべきである。)。

(二) 李車両修理費 一六万〇九六八円

乙二、弁論の全趣旨によれば、本件事故による李車両の修理費は、一六万〇九六八円であり、平成八年一二月二四日、幸地洋介が亀井に右金額を支払い、上田との間で共同の免責を得たことにより、幸地洋介は、亀井の上田に対する本件事故に基づく損害賠償請求権を代位取得したことが認められる(民法四二二条)。

(三) 小計 四六万六四九七円

三  過失相殺

前記一2の過失割合に従い、上田の損害額から一五パーセントを、幸地俊明の損害額から八五パーセントをそれぞれ減額すると、その残額は、上田につき五〇万二九四五円、幸地俊明につき六万九九七四円(一円未満切捨て)となる。

四  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額その他諸般の事情を総合すれば、上田、幸地俊明それぞれの本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、上田につき五万円、幸地俊明(幸地車両修理費分)につき五〇〇〇円とするのが相当である。

五  認容額

甲事件原告(上田) 五五万二九四五円

乙事件原告(幸地俊明) 七万四九七四円

第四結語

右によれば、甲事件原告の本件請求は、五五万二九四五円及びこれに対する不法行為の日である平成八年二月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、乙事件原告の本件請求は、七万四九七四円及び、内金五万〇八二九円につき不法行為の日である平成八年二月一五日から、内金二万四一四五円につき、幸地俊明の亀井に対する支払の日の翌日である平成八年一二月二五日(弁済による代位の遅延損害金の起算日は、支払った日の翌日であると考える。)から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるが、その余の各請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する(平成一〇年二月二四日弁論終結)。

(裁判官 河田泰常)

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